独立するにあたり、開業準備ばかりに目が行きがちな人も少なくはありません。しかし、会社を退職する際に必要な手続き・対応をしっかりしておかないと、後々トラブルが発生する可能性も。退職前後にどんな準備をすればいいのかを把握し、「上手な退職」につなげましょう。
退職を決意したなら、最低でもその2カ月前には上司や会社側に意思表示をしましょう。有給休暇の残日数を確認した上で、上司と相談のうえ、退職日を決定し、引き継ぎのスケジュールを立てること。
さらに、退職の1カ月前には後任者への引き継ぎをスタートし、引き継ぎ資料の作成なども行うこと。そして、10日前にはそれまでお世話になった取引先へのあいさつ回りや、あいさつ状の送付を行います。退職当日には、社内の人たちにしっかりとあいさつし、感謝の気持ちを伝えましょう。円満に退職することにより、独立後も応援してもらえるような関係性を築くことが大事です。
また、退職前後に会社に返却するもの、受け取っておかねばならないものを以下で確認しておきましょう。
・ 給与所得の源泉徴収票(確定申告時に必要)
・ 年金手帳(国民保険の加入時に必要)
・ 雇用保険被保険者証
・ 退職証明書
・健康保険証
・身分証明書
・社章
・通勤定期券
※ パソコンなどの備品は退職前にデータを整理したうえで返却。
これまでにもらった名刺や資料なども持ち出しできないので注意を!
会社を退職した場合、それまで入っていた健康保険と厚生年金保険に自分で加入しなくてはなりません。ここでは、それらのポイントについて解説していきます。
どちらも加入手続きは原則として退職日の翌日から14日以内に行うこと。国民年金の届け出を忘れてしまうと、保険料の滞納となってしまうので注意しましょう。
手続きは、市区町村役場の担当窓口でできるので、退職時に会社から受け取った「健康保険の資格喪失証明書」と印鑑の持参を。
・国民健康保険の保険料は住民税と同じく前年の所得から算定されるので、高額になることを想定し、その分のお金を手元に残しておくことが大事です。
※40歳以上であれば国民健康保険の加入によって介護保険も移行できます。
・ 国民年金については、厚生年金と種別が異なるため、退職時の年齢が60歳未満の場合は第1号被保険者への「種別変更」も必要となります。扶養する配偶者が60歳未満の場合、扶養している20歳以上の子供がいる場合などは、退職することで家族の国民年金を支払う義務が発生してしまうため、合わせて加入する必要があります。
先にも書いたように、前年の収入に応じて保険料が決まるため、起業直後の収入がない時期にはイタい出費となる可能性があります。そこで、健康保険についての裏技をご紹介しておきましょう。
勤務先の健康保険をそのまま継続し、引き続き被保険者として給付を受けることができます。(退職前に被扶養者であった家族も、引き続き加入可能)。
ただし、以下のことに注意を。
・ 退職前の加入期間が、資格喪失の日の前日までに、継続して2カ月以上あること
・ 退職後20日以内に手続きすること。任意継続制度を受ける場合、本人住所地の社会保険事務所などに申し出ることが必要です。
・ 2年間の継続形式のため、途中での国民健康保険への切り替えは不可。また、国民健康保険から任意継続への切り替えもできません。
とはいえ、退職前の本人負担額のみでなく、会社負担額と合算した金額を支払うことになるので、住まいの市区町村で算出した国民健康保険の保険料と比較検討することが大事です。
また、国民健康保険料は収入に応じて変動するので、起業後の年収が少なければ下がり、多ければ上がるということも想定したうえで比較検討しましょう。
独立当初は収入が少なく安定しないもの。その時期のみ、家族の扶養に入るという手段もあります。退職後の状況を想定し、保険料を比較したうえで一番メリットがある方法を選択しましょう。
市区町村の条例により、国民健康保険料の減額や免除ができる減免制度があります。
その基準は市区町村ごとに異なるので、事前に調べてみましょう。
ただし、減免制度を受けるためには、下記の条件を満たすことが必要です。
・今年度の世帯全員の所得金額の合計が前年度に比べ30%以上減少していること
・今年度の世帯全員の所得金額の合計が250万円以下であること
ちなみに、今年度の保険料が確定するのは所得金額が確定する翌年の1月以降です。その前の段階であっても、とりあえず減免条件に該当したものとみなして保険料を減免してくれる措置を取る市区町村もあるので、まずは相談してみましょう。
退職直後から起業準備を進めている場合、失業保険(雇用保険の基本手当)をもらうことはできないと考えましょう。なぜなら、就職の意思がないため、雇用保険における「失業」の状態に当てはまらないからです。退職後、起業か再就職か迷っている段階であれば、失業保険をもらうことも可能ですが、不正が発覚した場合には全額返還要求される可能性もあるので注意を!
逆に、この基本手当をまったく(あるいはほとんど)もらわずに、新たに事業を開始した場合は、「就業手当」「再就職手当」をもらえる可能性もあります。
ただし、「1年以上事業を継続できることが確実である」という条件があるため、「バイトなりパートなり従業員を雇うこと(雇用保険への加入)」を判断条件とすることもあり、起業時の状況次第でもらえる、もらえないの差があるようです。
退職前後は何かと多忙になるものなので、これらをしっかりと把握した上で、余裕を持ってできる限りの準備や検討をしておくようにしましょう。